ランチェスター戦略入門

ランチェスターの法則

F・W・ランチェスターが発見した2つの法則は俗に「一騎打ちの法則」と「確率戦の法則」と呼ばれています。第一法則は、個人対個人の戦いにあてはまるもので、第二法則は、集団対集団の戦いにあてはまります。

この二つの法則から導き出せるのは、戦闘においては、兵力の数が非常に重要であるという単純な原則です。要するに、兵力数の多い方が、殆ど勝利を収めるということです。
しかも、第二法則によると、確率戦においては、兵力数の差は、二乗となって影響します。 集団の戦いになれば、兵力数の差は、ほとんど決定的な要因として勝ち負けに影響します。

第一法則(一騎打ちの法則) 第二法則(確率戦の法則)
M0-M=E(N0-N)
戦闘力=E×兵力数
M02-M2=E(N02-N2)
戦闘力=E×兵力数2
M0...M軍の初期兵力数
M...M軍の残存数    
E...武器効率(武器の性能,腕前)

このあたりのことを非常によく理解していたのが、戦国武将の豊臣秀吉であったと言われます。
秀吉は、戦闘の前に入念な調査を行い、敵の兵力数が自軍より少しでも多ければ、決して戦おうとはしませんでした。この単純なルールを守ることによって、秀吉は、連戦連勝を誇ったのです。それでは、兵力数が少ない場合、勝ち目はないのでしょうか。 そうではありません。法則によると、兵力数が少ない場合、武器効率を上げることによって勝つ可能性があります。一般に、織田信長は、鉄砲隊の活用や、新兵器の開発など武器効率を上げることで勝利を収めてきたと言われています。(ただし、原則として兵力数を重要視したことは言うまでもありませんが)
ランチェスター法則は、戦いの場から、精神論や情緒論を排除して、戦いのルールを明確に提示したものであると言えます。

強者の戦略、弱者の戦略

ランチェスター戦略では、1位の企業(事業者)のみを強者とし、それ以外すべてを弱者と定義しています。つまり、世の中の圧倒的多数は弱者と位置づけられています。一般に強者は、経営資源が豊富であり、兵力数において優位であるため、第二法則に基づく戦いをするべきであると説明されています。すなわち、弱者を広域戦に引きずり込み、確率戦的状況を作り上げ、遠隔戦に持ち込むことが勝利への道であると言えます。 これに対して弱者は、第一法則に基づく戦いをしなければなりません。すなわち、局地戦を重視し、接近戦を挑み、一騎打ちに持ち込まなければ勝つことはできません。多くの企業(事業者)は、自らの立場を弱者と明確に位置づけできず、あるいは、位置づけできていたとしても、弱者の戦略を知らないために、無駄な経営努力をしている場合が非常に多いと思われます。まずは、自らを弱者であると明確に位置づけること。さらに、弱者の戦略を打ち出すことが勝つためには必要不可欠な条件です。

弱者の基本戦略 強者の基本戦略

差別化戦略:差別化とは同業他社と違うものをもつこと、あるいは、違うやり方をとることをいう。弱者が強者と同じことをしていたのでは、まず勝ち目はない。

弱者の5大戦略
1.局地戦で戦う
2.一騎打ちに持ち込む
3.接近戦で戦う
4.一点集中主義に徹する
5.陽動作戦を展開する強者の基本戦略

ミート戦略:ミートとは追随すること、つまりマネすることである。強者は弱者が差別化してきたら、直ちに追随すればよい。そうすれば弱者の差別化効果はなくなる。

強者の5大戦略
1. 広域戦で戦う
2. 確率戦に持ち込む
3. 遠隔戦を行う
4. 包囲戦を行う

戦略2対1の原則

B・O・クープマンの功績の1つに、戦略と戦術の配分を数値的に示したことがあげられます。彼は「ランチェスター戦略モデル式」を駆使して、戦略:戦術=2:1という結論を導き出しました。これは、最小で最大の功績をあげるためには、資源全体の3分の2を戦略に、3分の1を戦術につぎ込めばいいという原則です。この原則を基に、太平洋戦争中のアメリカ軍は、戦略兵器の開発などにより多くの資源を投入し、大きな戦価を上げました。

ビジネスにおける戦略とは、経営者の意思決定に関わる部分で、どの市場を標的とするのかの決定、商品を開発する方向性、サービスの種類、価格設定、物流拠点の整備、チャネルの選定などがあげられます。これに対して、戦術とは、営業マンの行動、営業ツール、セールストーク、広告・宣伝活動、キャンペーンの展開、といった具体的な営業行為を言います。

戦略は目に見えない領域、戦術は目に見える領域と言えるかも知れません。ビジネスにおいても、戦略がなければ、戦術は成り立ちません。営業マンの尻を叩くだけでは、経営者失格と言われても仕方がないでしょう。戦略2と戦術1の原則を基本として、目に見えない戦略に3分の2の力を注ぐことが、勝ち抜くためのルールであることを忘れないでください。

市場シェア理論と射程距離理論

ランチェスター戦略の白眉とでもいうべきが、市場シェア理論射程距離理論です。これは、B・O・クープマンの「ランチェスター戦略モデル式」を元に、田岡信夫が、高野山にこもって創り出したと言われています。

ランチェスター戦略において、市場シェア理論は、販売競争の優劣を測るモノサシとして使われています。それは、市場シェアが高い企業は、その市場から獲得できる利益も相対的に高いという仮説からなっています。もちろん、そうではない場合もあります。2位の企業が、1位の企業より利益額が大きいという例は、いくらでもあります。それでも、実際には、市場シェアにおいて圧倒的な1位を得ている企業は、最大の利益を獲得していることが殆どです。

それでは、市場シェアをどれぐらい獲得すれば、他者と比べて、圧倒的に有利だと言えるのでしょうか。それを明確に提示したのが、市場シェア理論です。
市場シェア理論においては、
1. 73.9%(上限目標数値)
2. 41.7%(相対的安定値)
3. 26.1%(下限的目標値)

というシンボル数値が提示されています。

ランチェスター戦略において、73.9%のシェアを獲得することは、完全独占状況を作り出すことであり、最終的な目標値であります。むしろ、それ以上のシェアを獲得することは、市場そのものや企業にとって、必ずしも有利な状況ではないと考えられています。

これに対して、41.7%は、業界の主流になり、独走状態に入る数値であると考えられます。よく経験則的に、40%以上のシェアをとれば安心であると言われますが、その根拠となるのが、この数値です。この数値を境に、利益率も他者と格差がついてきます。26.1%という目標は、激しい競争状況の中から一歩抜きん出て、安定的な強者になるための境目の数値であると考えられています。すなわち、1位といってもいつ逆転されるか分らない状況から、ある程度安定した強者になるのが、26.1%です。

これ以下の目標数値としては、19.3%、10.9%、6.8%、2.8%などがあります。市場シェア理論は、企業活動において、やみくもに頑張るという状態から、自社の目標値を明確に設定するための基準となります。

ところで、ある市場において、どの程度の強者となら、戦って勝ち目があるのでしょうか。その基準を射程距離理論が示しています。射程距離理論においては、局地戦や一騎打ちの戦いにおいて、3対1以上の差がついてしまえば、逆転することができないとされています。局地戦ということですから、店内シェアや、納入比率での争いということです。これに対して、広域戦(全国や県レベルの戦い)においては、√3対1以上の差がついてしまえば、逆転は不可能であるとされています。

逆に言えば、敵に対して、3対1もしくは√3対1以上の差をつけてしまえば、まずその地位は安泰であると言えます。もちろん、例外はありますし、3対1以上の差をつけられた時の戦い方も、ランチェスター戦略は示しています。しかし、圧倒的な強者に無謀な戦いを挑み、いたずらに損害額を増やすよりは、そのような強者との戦いを避けるというのも立派な戦略です。また1位の企業からすれば、敵に3倍(√3倍)以上の格差をつけることが、目標となります。

市場セグメント

ランチェスター理論において、市場セグメントは非常に重要な概念です。

例えば、圧倒的な1位(敵に3倍以上の格差をつけている)の強者があったとして、どこの分野での1位と言えるのでしょうか。それは、ある限定された市場における圧倒的な1位でしかありません。限定とは、地域であったり、業界や業種であったり、また顧客の特性であったりします。ランチェスター戦略においては、常に、ある局面における市場シェアという考え方をします。逆に言うと、ランチェスター戦略においては、全体シェアという考え方は存在しません。だから、ある県内の市場において、3倍以上の格差をつけられていたとしても、県内の何市というようにセグメントし直すことで、逆転可能な市場を見出すことができるようになります。

しばしば、規模は小さくても、財務基盤が強固で、利益率の高い企業があります。それは、独自に設定した自社が圧倒的1位にいることができる市場を確保していることが殆どです。独自に市場を設定するとは、その市場におけるルールを決めることに他なりません。自社が決めたルールなのですから、自社に有利な戦いができることは、当然だと言えるでしょう。ランチェスター戦略を身につけた者にとって、市場セグメントの考え方と方法は、最も大きなノウハウの1つであるといえます。

勝ち方のルール「3つの基本」

ランチェスター戦略を構築した田岡信夫が、「勝ち方の基本ルール」として、繰り返し、あげているのが、以下の3つです。

1.ナンバーワン主義

ナンバーワンとは、2位以下の企業に3倍以上の格差をつけている圧倒的な強者のことです。ある市場でナンバーワンを獲得することで、競争においても、利益額の確保においても、非常に優位な位置にいることができます。
(株)アシックスの前身オニツカタイガーは、すべてのスポーツ用品を製造販売するのではなく、スポーツシューズ、しかもバスケットシューズに限定して、製造販売しました。バスケットシューズの分野で、41.7%以上のシェアを確保した後に、初めて次の商品に進出しました。
このように小さな市場であっても、ナンバーワンの地位を築くことで、他者の攻撃を受けずに、次の戦略に移ることができるのです。

2.足下の敵攻撃の原則

1位の企業は、競争において優位性を持っています。ですから、1位の企業にやみくもに戦いを挑むことは、無謀な行為だと言わざるを得ません。実際のビジネスにおいては、競争目標はあくまでも1位の企業であっても、攻撃する対象は、自分より弱者である下位の企業であるべきです。勝ちやすきに勝つ。これが、戦略における基本の真理です。自分より下の企業を叩いて、自らの力を蓄え、しかるべき1位との戦いに備える。それが、勝つためのルールです。

3.一点集中主義

ひとたび市場セグメントを行い、攻撃目標を設定したなら、その行為に集中することが必要です。
戦略性のない企業は、集中することができずに、儲かりそうな市場をつまみ食いすることに時間を費やします。それでは、単に時間を消費するだけではなく、貴重な経営資源を浪費していることになります。戦略とは、不要な部分を切り捨てることであると肝に銘じなければなりません。
戦争においても、ビジネスにおいても、「兵力の小出し」は、負けるための最大の戦法です。どんな小さな市場であっても、ナンバーワンの地位を確保するまでは、自らの経営資源を集中し続けなければなりません。F・W・ランチェスター自身も、その著書「戦争と飛行機-第四の武器の曙」の中でこう述べています。「陸軍であれ海軍であれ、その主力戦力を作戦場面のなかの一点に集中するというノウハウが、すべての戦略の中心に置かれなければならない」
(認定コンサルタント=駒井俊雄)